夢のいたずら

若い頃に描いた夢が、このブログに連れてきてくれました。人生まだまだこれからです。詩とエッセイを中心に書いています。

力ラーメン(下)

『あしたのジョー』の中での話。
 力石徹がジョーとの対戦のために過酷な減量している時、マンモス西がジムをこっそり抜け出して、屋台のうどんを食べに行った。それを知ったジョーは、西を追いかけて行き、うどんを食べている西を殴った。
「こんなところを見たくなかったぜ、西…」「ぶざまだな。みじめだな…」「おまえはもう、みそっかすになりさがったんだ…。おれや力石の生きる世界からな」「見たくなかったよ…。お前を信じていたかったよ」
 腹を殴られ、鼻からうどんを出しながら、西は言った。
「おっちゃんが、いつかいったとおりやった…。一度のんでしもうたら…、一度食ってしもうたら、それまでの減量が、苦しければ苦しいほど…、もう、耐えられんようになる…、と」「わいはあかん…。わいはだめな男や…」


 そう、ぼくは一日一食の決心を破り、禁断の木の実を食べてしまった。西の言うところの、「だめな男」に成り下がったわけである。その翌日から、食べた食べた。一ヶ月分30食のラーメンは、2週間ももたなかった。もちろん、『サトウの切りもち』も。


 月の初めにバイト料と仕送りでそこそこ潤っていた生活費は、最初に買ったラーメン代と切りもち代、玉子・キャベツ・ガーリック・酒、さらに友人たちとの飲み代に消え、手元にはもう5千円も残ってなかった。その一年前に、2週間で2千円の生活を強いられたことがあるが、その再来である。またあんな地獄の生活をしなければならないかと思うと、気が重くなった。


「どうしよう?」
 その頃、すでに九州に戻ることを決めていたため、バイトは辞めていた。しかし、背に腹は替えられない。
「もう一度、バイトをするか」
 と一度は決意した。しかし、バイトを始めるにしろ、すぐにはお金が入ってこない。とにかく、問題は今なのだ。


 いろいろと迷ったあげく、ぼくは一つの決断をした。それは、借金である。
 まあ、借金と言っても、サラ金に手を出すのではない。横須賀の叔父に借りるのだ。
 すぐさま公衆電話に走り、叔父に電話をかけた。
「おいちゃん、頼みがあるんやけど…」
 叔父は快く(?)了解してくれた。
「絶対返すけね」
 そう言って電話を切った。


 そんなこんなで、ぼくはその月を何とか切り抜けた。
「力ラーメンは力にならん。こんなものに頼っていると、ろくなことはない」と悟ったぼくは、買いだめなどという馬鹿げたことはやめることにした。
 その後、四苦八苦しながらも、何とか東京での生活を終えることが出来た。もちろん、残りの東京生活で、力ラーメンを食べることはなかった。

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