夢のいたずら

若い頃に描いた夢が、このブログに連れてきてくれました。人生まだまだこれからです。詩とエッセイを中心に書いています。

力ラーメン(上)

 二十歳から二十二歳までのおよそ二年間、ぼくは東京に住んでいた。
 初年度はともかく、二年目、ぼくは食うや食わずの生活を強いられていた。強いられていたは大げさだが、要は自分でそういうふうにしてしまっていたのだ。
 原因は、ぼくの金遣いの荒さである。バイト代などで、まとまったお金が入ってくると、いつも飲みに行っていた。しかも、それは一日では終わらない。一週間くらい続けてである。
 そんな具合だったので、お金はすぐに底をついてしまった。ひどい時には、2千円で二週間を過ごすこともあった。そういう苦しい経験をしているのに、あいかわらずぼくは、お金が入ると飲みに出かけるのだった。


「これではいかん」と反省したのは、九州に戻る三ヶ月前のことだった。とはいえ、その一年と九ヶ月の間に作った、数多くの飲み友だちとの関係を壊したくない。しかし、そういう生活を続けていく限り、ぼくはのたれ死んでしまう。
「では、どうしたらいいか?」
 ぼくはアルコール漬けになった頭で必死に考えた。


 考えること一日、ようやく結論がでた。それは、「少なくとも一日一食はしよう」ということだった。そのためには、お金が入ったら、食料を買いだめしておくことだ。


 ということで、下宿近くの西友ストアに行って、何を買いだめするかを決めることにした。今でもそうだが、ぼくはスーパーに入って、最初に見るのはラーメンである。
 そのラーメンに当りがあった。『西友ラーメン』というのが売っていた。そのラーメン、他のラーメンに比べるとはるかに安いのだ。
「これは使える」
 しかし、ラーメンだけでは空腹感が増すだろう。そこで、もう一品追加することにした。


「何がいいだろう」と店内を回ってみると、そこに最適なものがあった。
『サトウの切りもち』
 これ二切れでご飯一杯分に相当する。
「これはいい」
 ラーメンと餅だけで満腹になるとは思えないが、それでも空腹感は充分に満たすことが出来るだろう。我ながらいいアイデアだと思ったものだった。


 さて、待ちに待ったお金が入った日、ぼくはさっそく西友ストアに行って、ラーメン三十食とサトウの切りもち何パックかを買い込んだ。
「これで、食いっぱぐれはない」
 しかし、この計画がいかに惰弱な計画であるかということを、この時のぼくは知るよしもなかった。

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