過ちは、安き所に
数年前、仕事中での話。
脚立に上って作業をしていた。高さは1メートル程度で、大したことのない高さだ。
数分で作業は終わり、脚立から下りようとした時だった。なぜか右足が脚立に絡まり、左足だけが着地してしまった。左足を軸にして蹴上げたような格好になったわけだ。
柔軟体操をやっていたおかげで、肉体的には異常は無かったが、その時「ビリビリ」という布を引き裂く音がした。
ぼくは慌ててズボンを見た。しかしズボンに破れた形跡はない。
そういえば右側のポケットにミントの粒が入っている。「ビリビリ」と聞こえたのは、実は「パラパラ」というミントの粒の音にちがいない。
それで安心して、ぼくは次の作業に入った。
それから数時間経ち、トイレに行った時だった。ズボンのファスナーを開くと、なぜか股間がスースーする。どうしたんだろうと見てみると、
『えっ!?』
ぼくの一物が裸になっていた。「パラパラ」と思っていたのは、やはり「ビリビリ」という音で、パンツの破れる音だったのだ。
『ズボンの直ばきと同じ状態じゃないか』
そう思うと気持ち悪く、少し痛くもなった。
徒然草にあるとおりで、大したことのない高さの時に過ちというのは起きるものだ。
過ちはパンツに訪れたのだった。