ぼくは前世
ぼくは前世、
どこの国の人間だったのかを知らない。
時折古い日本の街並みが夢に出てくるし、
思い入れのある場所に来世は生まれると言うし、
おそらくは日本人ではなかったかと思っている。
ぼくは現世、
人に誇れるような生き方もしてないし、
人に影響を与えるような人間でもないし、
どちらかというと中流以下の人間だし、
前世もきっとそんな人生を歩んでいたのだと思う。
ぼくは前世、
どんな人の子として生またのかを、
どんな配偶者と暮らしていたのかを、
どんな人たちに囲まれて生きていたのかを、
これっぽっちも憶えていない。
ぼくはだから、
初めて会った時に親しみを感じる人を、
気がついたときに好きになっている人を、
出会う前に予感を感じる人を、
前世を共に生きてきた人だと思っている。