狭い狭い谷間の町
すすけたような灰色の雲が
まだらな雨を落としだすと
ぼわあ・・ぼわあ・・ぼわあ・・
この狭い谷間の街を目指し
つや消しした蒸気機関車が
白い黒い煙を吐いて、体を
揺らしながらはいってくる。
行き交う人の姿は傘に隠れ
男女の見分けすらつかない。
その中を傘をささぬ紬女が
何か叫びながら歩いている。
だけど機関車の大きな声は
ぼわあ・・ぼわあ・・ぼわあ・・
女の叫びをかき消していく。
ありし日の昭和の雄叫びが
この狭い谷間にある街駅の
かすれ行く記憶の内側から
ぼくの中でこだましている。
ぼわあ・・ぼわあ・・ぼわあ・・