夢のいたずら

若い頃に描いた夢が、このブログに連れてきてくれました。人生まだまだこれからです。詩とエッセイを中心に書いています。

1978年冬、新宿

1978年冬、新宿、
駅から地下通路に降りた時
そのニオイがあった。
「あいつがいる」


その年の夏にぼくは
やはり同じ場所で
このニオイを体験している。
臭い、というより痛い。
そのニオイが鼻につくたびに
こめかみ付近を
ハンマーでガンガンやられたような
衝撃が走ったものだ。


その衝撃が今また
ドンドン近づいてくる。
「ああ、逃げなくては」
心はそう思っている。
だけど周りの状況がそれを許さない。
そうこうしている間に
あいつが視界に入ってきた。


前方10メートル、
前と同じ格好だ。
一段と煤けた作業服に
原始人のように見える長髪。
本人もそのニオイが痛いのか、
頭を押さえながら
「ガー、ガー」と奇声を発している


前方3メートルに迫った時
あいつを中心とした
半径3メートル以内に
人がいなくなった。
9π平方メートルの
ニオイの空間が出来たのだ。


誰もが通路の端に寄って
あいつが行きすぎるのを待っている。
1978年冬、新宿、
その日ぼくは、
ニオイの最前線にいた。

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