夢のいたずら

若い頃に描いた夢が、このブログに連れてきてくれました。人生まだまだこれからです。詩とエッセイを中心に書いています。

お金の行方

 昨日は休みだった。昼間、嫁さんと近くのレストランに昼食を食べに行ったのだが、そこで高校の同級生S君にあった。彼は、高校以来の友人で、卒業後もずっと飲み友だちでいるのだが、コロナ禍があってからは会っておらず、久々の再会となった。彼は仕事でそのレストラン近くに来ていたということだった。しばらく話をして、また飲み会をやろうということで別れた。


 彼と別れたあと、ふと思い出したことがある。それは、高校2年の頃の話だ。
 他のクラスの男が、先生の車にバイクをぶつけて傷を入れたことがあった。先生は怒り、その男に「弁償しろ」と言った。
 S君は、その男の友人だった。男からそのことを聞いたSは、「どうしようか」とぼくに話を持ちかけてきた。
「車の修理代って、高く付くんやろ?」
「うん。7万円はかかると言われたらしい」
「7万円かあ。大きいのう。一人じゃどうしようも出来んやん」
「そうやろ。どうしようか?」
「こういう場合は、カンパしかないやろ」
「やっぱりそうなるか」
「それしかないやん」
「じゃあ、悪いけど、しんた集めてくれん?」
「え、おれが?何でおれが集めないけんとか。別にあいつと親しいわけでもないのに」
「頼む。おまえ顔広いんやけ」
 S君に拝み倒されて、結局ぼくは引き受けた。


 翌日からぼくは箱を持って各クラスに出向き、「実は…」と先ほどの話をして、お金を集めて回った。
 1週間ほどお金を集めた結果、何万かのお金が集まった。「もう少しで目標達成やの」とクラスの連中と話していたときだった。
 S君が、「しんた悪い。せっかく集めてもらったけど、いらんようになった」と言ってきた。
「えっ、何で?」
「先生が、『もういい』と言ったらしい」
「あっ?おまえ、この金どうするんか。もう返せんぞ。誰がいくら払ったか、わからんし」
「そうか。どうしようか?」
「『どうしようか?』って、おまえが考えれ。おれは知らんぞ」
 そう言って、お金の入った箱ごとS君に渡した。
 S君も困ったようで、「しかたない。○○(当事者と同じ部活の人間)に預けて、どうにかしてもらおう」


 それから何日かたって、ぼくはS君に「おい、あの金どうなった?」と聞いてみた。
「あ、そうやった。あの金どうなったんかのう」
「えっ、知らんと?」
「おう、忘れとった」
「○○に預けるとか言ってたやないか」
「ああ、そうやったのう」


 ということで、ぼくたちはその○○のところに行って、金の行方を聞いた。
 ○○は「ああ、そうやった。金預かってから、△△に預けたんやけど、その後は知らん」と言う。
 その△△も、そのお金のことは忘れていた。
「××に預けたような気がするんやけど…」
 話はどんどん広がっていった。
 最後に聞いた人間は、「ああ、カンパの金やろ。しんた、おまえが集めよったやん。おまえ知らんとか?」と言った。
 ぼくは「おれが知らんけ、聞きよるんやろ」と言った。
「そうか。おれも知らん」
「・・・」


 さて、あのお金は、いったいどうなったのだろうか?
 わかっているのは、ぼくたちが聞いて回った時、誰もがそのお金のことを忘れていたということだ。
誰も嘘をついている様子はなかった。事故の当事者の手にも、そのお金は渡ってないらしい。いったいどこに消えたのだろう。
 50年来の謎である。

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