七五三の写真
昨日、嫁さんが聞いてきた。
「しんちゃん、七五三の写真ある?」
「ないよ」
「え、お宮参りとかしてないと?」
「いや、お参りは黒崎の岡田宮でやったんだけど、写真はない」
「どうして?」
母親の話では、ぼくは幼い頃、写真を撮られるのが嫌いだったという。とにかくカメラを向けると泣き出したり、逃げ出したりしていたらしい。
三歳の頃に、父親の仕事仲間と海水浴に行った時のことだが、汽車の中で父親の同僚が「ぼうや、写真を撮ってやろう」と近づいてきた。そしてカメラをぼくに向けた時だった。ぼくは大声を上げて「おまえ、帰れ!」と言ったという。その時の写真があるのだが、カメラを睨みつけている。その後はその人を避けてしまい、写真を撮らせなかったらしい。
ぼくの七五三、当初はカメラ屋さんで記念写真を撮る予定だったらしいが、そういった前歴があるので、記念写真はやめたのだとか。
今はそこまででもないが、やはり写真を撮られるのはあまり好きではない。特に写真を正面から撮られるのはいやだ。中学や高校の時の卒業写真を撮る時、無意識に視線をはずしていたらしく、何度も撮り直しをさせられたものだった。
そんな写真嫌いのぼくだが、一枚だけお気に入りの写真がある。それは高校二年の夏休み,友だち数人と鹿児島に行った時に、開聞岳の山頂で撮った写真だ。それまであまり好きではなかった高校生活が、その旅行を境に俄然楽しくなるのだ。その記念碑として、五十年近く経った今でも、ぼくはその写真を大切に保管している。とはいえ、そのお気に入り写真も正面ではなく、横を向いている。