夢のいたずら

若い頃に描いた夢が、このブログに連れてきてくれました。人生まだまだこれからです。詩とエッセイを中心に書いています。

多生の縁

 一日に何十人いや何百人の人とすれ違っている。そのほとんどが赤の他人で、おそらくは初めて見る人たちだ。だから心に引っかかりもなく、スラスラと流れて行くのだ。時には意味ありげにこちらを見ている人もいるが、だいたいが人違いのようで、近くまできて気がつき、通り過ぎる時にはすでに知らん顔をしている。


 その逆だってある。つまりぼくが相手を意味ありげに見ているわけだ。ただぼくの場合は、相手の顔を 最後までしっかりと見ている。

「もし人違いだったらどうしよう」と考えるより先に、

「もし本人なら無視できない」という気持ちになるからだ。だけど、だいたいが人違いで、あとは笑ってごまかしている。


 ところが笑っているぼくに対して、もう一人のぼくが納得できないのか、

「本当に知らない同士なんですか」とささやきかけてくることがある。心の声にそう言われると気になって、つい振り返って相手を見てしまう。すると不思議なことに、そういう時は相手もぼくを見ていることが多い。

「やはりどこかで会っているんだ」と確信するも思い出せない。この人生を振り返っても出てこない。


 案外、その人との出会いは、前世にあったのかもしれない。ということは、そういう縁を持っている人ゆえに、再びどこかで会うのかもしれない。しっかり顔を憶えておかないと、その時にまた、この人生を振り返らなければならなくなる。

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