夢のいたずら

若い頃に描いた夢が、このブログに連れてきてくれました。人生まだまだこれからです。詩とエッセイを中心に書いています。

ライバル

ぼくが中学生の頃

親戚にクリという犬がいた。

横須賀の久里浜生まれということで

その名をつけられたのだった。

お米屋さんやガス屋さんを噛みつくわ

そのくせ不審者が来ても吠えないわ

まったく役に立たないアホな犬だった。

ただ子作りだけは励んでいたようで

彼の死後、親戚の家の周りで

クリによく似た犬を

ぼくは何匹も見たことがある。


ぼくが高校生を卒業する頃

その親戚がロクという猫をもらってきた。

鎖につながれた生活を強いられ

運動不足になっていたらしく

自分の首を掻く足が空振りするほど

丸々と肥えていた。

ロクは人に懐かない猫だった。

もしかしたら自分の飼い主はあくまでも

自分を鎖につないだ前の飼い主であり

自由にしてくれた親戚は、自分の中の

飼い主ではなかったのかもしれない。


ロクとクリはすこぶる仲が悪かった。

ロクは親戚に住むようになってから

鎖でつながれることもなく

家の内外でのびのびと暮らしていた。

一方のクリは人を噛むので

庭の隅に鎖でつながれていた。


クリはその待遇の差が気に入らなかった。

が、そのことを飼い主に訴えることも出来ず

そのストレスのはけ口をロクに向けていた。

とにかくロクの姿を見るとクリは

気が狂ったように吠えまくった。


ロクはというと、そんなクリの感情を

逆なですることばかりやっていた。

クリの目につく所に座ってみたり

クリの耳に届く所で猫なで声を上げてみたり

クリの目の前で飼い主に抱かれてみたり…。

とにかくクリに意地悪しているとしか

思えないような行動をロクは取っていた。


ぼくが二十歳を過ぎた頃

ロクは親戚宅には住んでいなかった。

どうやら家出したらしい。

案外クリの存在がストレスになっていて

それが原因の家出だったのかもしれない。

一方のクリはというと

ストレスの原因が取り除かれたことで

安心したのだろう、それから数年生きていた。

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