なごり雪
昭和五十五年三月某日、
国鉄新宿駅のホームには
冷たい雪が降っていた。
東京時代を共に駆け抜けた友人との、
その日が最後の一日だった。
いつものように
歌舞伎町でパチンコをして、
いつものように
駅のホームで別れたのだった。
「なごり雪か・・・」
「こういう時って、
本当に雪が降るんだな」
それが彼と交わした
東京時代最後の会話だった。
そしていつものように
「じゃあね」と言って
別々の電車に乗り込んだ。
あれから四十年以上の歳月が過ぎた。
あの日の気持ちの上に、
どうでもいいような出来事とか、
感情とかが積み重なって、
ぼくは今に到っている。
彼とはあれから一度しか会ってない。
あの頃は唯一無二の友人だと思っていた。
その後も頻繁に会う約束もした。
だけど、その時代が終わると
互いの人生はあっさりと
互いの存在を切り捨ててしまった。
そんなものなんだろう。